日本刀の形状に関しては素人同士の議題にも上りやすいのですが、材料の話ともなれば、眠気に襲われる人が続出することでしょう。ですが材料こそ日本刀の魂とも言え、日本刀をよく知るためには避けて通れない分野なのです。日本刀の材料の中核は玉鋼と言われるもので、砂鉄から精錬される特殊な鋼です。洋式高炉が活躍するようになるまで玉鋼は古来の「たたら製鉄」によってしか製造できず、日本刀の歴史と材料である玉鋼との関係は、切っても切り離せないものなのです。

 西洋の製鉄技術が流入して以降は「たたら製鉄」の生産性が見下され、20世紀前半には消滅してしまいました。しかし備蓄された玉鋼が無くなってしまえば日本刀の再現は不可能になることから、戦後、日本美術刀剣保存協会等が尽力して「たたら製鉄」を復元し、現在も刀匠に行き渡るようになったのです。

 ところで材料の他にも日本刀の魂と目されるのが「切先」です。刀の先端部分に該当し、「鋒」と表記されることもあります。古代の直刀であれば切先も小さく、特に拘る必要性もなかったのですが、刀身に反りが加えられて以降は切先にも反りが生まれ、鎌倉時代にはかなりの大きさに変化したことから、その形状を無視できなくなりました。南北朝時代には「大鋒」まで登場し、切先は刀身全体のバランスを大きく左右する、言わばデザインの要となったのです。

切先が美術品としての日本刀を鑑賞する上で重要なポイントになったことで、半太刀のデザインにまで刀匠の心血が注がれました。半太刀は太刀の機能性(反り)と打刀の携帯性とを兼ね合わせた優れもので、庶民の道中差にも使われるほどありふれた刀でしたが、切先の反りを作るのに妥協は無かったのです。