戦国時代は合戦にばかり注目が集まりますが、武将の大半の時間は平時に割かれるのであり、彼らの趣味もそこで育まれました。例えば美術品収集は当時の趣味の代表例でしたが、日本刀の収集も積極的に行われたのです。彼らは単なる軍人ではなく、名刀に芸術的価値を見出し、惚れ込んで集めるだけの審美眼を持ち合わせていました。しかし鑑賞者としての満足は収集の唯一の理由ではなく、褒賞品としての利用価値を見越して集めていたことは付言しておかなければなりません。当時の戦功の褒賞品は当然ながら土地でした。しかし武将の間にも貧富の差は存在しますし、保有する領地の広さも無限ではありませんでした。そこで武勲をたてた兵士を前にして、土地の代わりに授けられたのが刀剣や什器だったのです。武将としては領地と同等のものだと納得してもらう必要があり、積極的に鑑定してもらったようです。

 さて、主従関係を媒介するのが領地だったということは、領地を持たない雑兵もいたことを意味します。彼らは傭兵として雇われた農民や流浪人でした。君主に生涯仕えるつもりもないわけですから、戦闘中に盗みを働いたり、敵前逃亡したりする者も大勢いました。彼らに忠義心のないことは武将もよく心得ていて、貸し与える刀も貧弱で戦闘に耐え得るものではなく、使い捨ての兵士と見做されていたのです。「雑兵物語」の中にも「なまくらものはナベヅルのようにまがるべい」とあり、立派な刀を持てる兵士は武士に限られたことが分かります。因みに「雑兵物語」には兜を鍋の代わりに用いて食事の支度をする農民の姿なども描かれており、戦いに不慣れな者も生活のために合戦に参加した様がありありと伝わってきます。